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書籍紹介

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2018年12月

旧刊

「帰還せず」-残留日本兵60年目の証言-

青沼陽一郎|333ページ|1,700円
新潮社(2006年7月)

 本書は東アジアに派遣された日本兵のうち、様々な事情によって終戦後日本に帰還しなかった14名のインタビューを基にしたルポタージュである。買ったものの読まずに10年が過ぎた。私の父も召集され、軽騎兵(軽武装で偵察や奇襲、追撃が主な業務)として中国武漢からフィリッピンへと転戦した。しかし急遽本土に呼び戻される。アメリカ軍による東京空襲が始まり、陸軍は電気工学、電波工学を学んだ兵を東京都の市ヶ谷に集めたのである。父は召集される前、夜間の工業学校で電気工学を学び、召集後は通信兵としての訓練も受けていた。そして東京で終戦を迎えた。帰還しなかった人達、命令で帰還した父、そんな勝手な対極的な思いがあったから読まずにいたのかもしれない。

 本書の読みどころは、14名それぞれ違う状況が違うことにある。インパール作戦に参加した人、インドネシア独立戦争に参加した人、温存された部隊にいたため一度も戦わずに終戦を迎えた人、一度帰国したものの自分の墓があり兄弟から「なぜ帰ってきたのか」と問われた人等・・・、そんな元日本兵を受け入れた東アジアの人達の暖かさ、平和の大切さを再認識させられずにはおかない。元日本兵と結婚したタイ人女性が「人間は愛する人が多い方がいいでしょ。憎んでいる人が多い方よりずっといいでしょ」と語る。その言葉が染み渡る。(文責 森均)

2018年11月

新刊

『教育のなかのマイノリティを語る』

前川喜平|276ページ|1,500円
明石書店(2018年9月)

昨年から今年にかけてモリカケ問題で名前が知れ渡った人物の名前が大きく表紙にあ ったので、どんなんかな~と購入した。

本書の宣伝には「学校や教室で、マイノリティの子ども・生徒の生きづらさに共感 し、どうかかわっていけばいいか。日本の学校文化のなかで見過ごされてきたマイノリ ティ問題にとりくんできた現場の教員と長く教育行政にかかわってきた元文科省幹部職員が現状の問題点とこれからの課題を縦横に語りあう」とあるが、いずれのテーマも読み応えがあって興味深い。秋にお勧めの一冊である。

   部分タイトル

 ・高校中退 学習言語を習得できない子どもたち / 青砥恭, 前川喜平

 ・夜間中学 歴史・意義・課題 / 関本保孝, 前川喜平

 ・外国につながる子ども「いいものがいっぱい」ある多文化教育 / 善元幸夫, 前川喜平

 ・LGBT マイノリティの生きやすさとは / 金井景子, 前川喜平

 ・沖縄の歴史教育 平和教育をつくりかえる視点 / 新城俊昭, 前川喜平

(文責 中垣芳隆)

2018年10月

旧刊

『英語教育学と認知心理学のクロスポイント:小学校から大学までの英語教育を考える』

太田信夫・佐久間康之|305ページ|3,600円
北大路書房(2016年2月)

 本書は、認知心理学研究と外国語とりわけ、英語学習との関係を研究されてきた研究者の長年にわたる知識が凝縮している。本書を読むと、認知心理学は脳科学におけるエヴィデンス、つまり脳波計やfMRIなどの機械で脳波や血流の反応による像がなければ、実証できない様子に見受けられる。だが、本書のメインはそうではない。きちんとした手順を踏み,因子と考えられる変数の制御がきちんとできている「信頼できる」数量的研究を掲載してくれている。データもかなり簡略化し、文章に書き換えて表現してくれているため、一見難しいであろうと思われる認知心理学に基づいた言語教育の研究論文を比較的わかりやすく解説してくれている。そこに特別寄稿した脳科学者のロバート・H・ローギーの言葉にはよく耳を傾けるべきである。

 「(人間の脳機能の知見を教育実践への)(前略)応用例の中には、科学的根拠が皆無で、もしくはその科学的根拠の完全なる誤解に基づいた、まったくつじつまの合わないものもある。根本的に無意味な脳科学の専門用語を使用しており、教育課程に見せかけの科学的根拠を与えてはいるが、何の根拠にも基づいておらず、公明な脳科学者であれば誰も支持はしない。」(p. iV)

 本書に載せられた研究結果はリスニングへの不安対処方略や語彙学習において、たった1回しか見ていない単語でも長く継続して単語の勉強をすれば、一夜漬けのテストには向かないが、実力に対して十分な学習効果が期待できると生徒に伝えることができる、というのも知識として知っていれば、単語テストを継続するモチベーションにも繋がるであろう。ここで最もお薦めしたい章は、文法指導の実験結果である。実に慎重に文法指導の効果を検証するための実験条件を整え、可能な限りの変数を制御した「受動態」の指導に関する研究が記されている。某国立大学の一般教養の大学制を対象とし、3週間、授業内にて「受動態」に焦点をあてた指導を施したが、3週間の文法指導の事前と事後の差に統計的に有意(意味の有る)差は見受けられなかった、という研究結果である。このように成績優秀な某国立大学の学生から参加者を慎重に選定し、「あるターゲットとする文法項目」を演繹的に指導していてさえ、そうそう「受動態」は身につくものではありません、と結論づけたことは、数量的研究を行う者は、襟を正し、見習うべきである。産出したデータを丁寧に扱い、その結果を真摯に受け止め、勇気をもって公言すべきなのだと我々に教示している。それとともに、文法は演繹的に指導を行っても、そうそうすぐに習得できるものではないことを私たち英語科教員に教えてくれている。そんな励ましもこめられた重厚な内容となっている。(文責 福島知津子)

 

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