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書籍紹介

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2020年2月

旧刊

『教育格差』

松岡亮二|384ページ|1100円
筑摩書房(2019年7月)

教育格差 階層・地域・学歴

最近の教育関係のビッグニュースは、民間英語試験の延期だけではなく、記述式問題を含めた2020年度の大学入試改革の延期。頓挫した原因の一つはきちんとした「データ取得計画」がなかったこと、言い換えれば「改革を実行する」こと自体が目的、今回の入試改革もまた、戦後日本の教育行政で繰り返されてきた「改革のやりっ放し」となる懸念が残る。
 教育社会学者である著者は、本書において「分析可能なデータを収集する」「教職課程で『教育格差』を必修に!」という二つの提言を行っている。現状把握なき改革のやりっ放しは止めなければならない。分析可能なデータを定期的に取得しなければ病変の広がりがわからない。地味だがとても建設的な提言である。
 また、著者は、日本は生まれ育った家庭と地域によって、何者にでもなれる可能性が制限されている「緩やかな身分社会」だと指摘する。最初に、戦後いつの時代にも教育格差があったことを示し、次に教育格差が生成するメカニズムを幼児教育、小学校、中学校、高校と各教育段階ごとに解明していく。
 帯にあるごとく、読後感は重いが説得力は半端ではない一冊である。

(文責 中垣 芳隆)

2020年1月

旧刊

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(著) 上杉周作、関美和(訳)|400ページ|1800円
日経BP社(2019年1月)

TEDトークで世界の人口問題について聞いたことがあった。躍動するスライド、説得力のあるプレゼン。「私が子どもの頃、学校で世界の人口は30億と教わった。今、世界の人口は70億で・・・」世界の人口に関する“事実”が転がるように行き交い空間を圧倒的に支配したプレゼンのインパクトを今でも覚えている。しばらくたって、このプレゼンターはスウェーデンの医者・公衆衛生の専門家であり、財団を設立して世界の統計データを収集してそれを客観的に伝える研究をしている人であることを知った。
 そして、年間ベストセラーがあちこちで発表される年末年始を迎え、FACTFULNESS(ファクトフルネス)という本が大反響を呼んでいることを知り、手に取って読んだ。著者はハンス・ロスリング他2名。点と点が繋がり線になり面になり、一気に合点がいった。あのTEDトークのプレゼンターが本書の著者だったのだ。
 本書では統計データが大量に取り扱われている。人口、所得、貧困、平均寿命、自然災害、教育、医療、気候変動等に関するデータ量は圧巻である。ロスリングは、世界の事実に関する私たちの知識が不足していることを指摘しながら、それが単なる知識のアップデート不足からきているのではないと述べている。本書ではその理由がいくつか延べられているが、その一つとして物事をドラマチックに捉えがちな人間の本能と人間の思い込みが挙げられている。この理由を含めて、グローバルな問題を統計データに基づいて理解する取り組みが教育で不可欠なものと位置付けられている今、本書の意義は大きい。
 さて、ファクトフルネスとはいったい何なのか。ロスリングの造語であると書かれているが、ファクトフルネスとは「事実」なのか「情報」なのか「知識」なのか。日本語の訳本ではこれら3つの言葉がほぼ同義で交互に用いられているようである。ロスリングは、情報は事実とは限らない、情報は考える礎として活用してこそ知識に匹敵する、と示唆しているのではないか。アインシュタインの名言「情報は知識ではない」を想起しながら、そう考えてみた。
 人々の「知識不足と闘い、事実に基づく世界の見方を広げること」をライフワークとしたロスリングは、本書の完成を待たずして2017年2月にこの世を去った。本書はロスリングの子どもたちの手によって完成されたそうだ。

 

(文責 東條 加寿子)

2019年12月

旧刊

『わたしは13歳、学校に行けずに花嫁になる。』

久保田恭代・寺田聡子・奈良崎文乃|142ページ|1540円
合同出版(2014年10月)

 

これは国際NGOプラン・インターナショナル(以下プラン)の3人のメンバーによって若年層向けに著された本である。プランの手法は、「子どもとともにすすめる地域開発」と呼ばれ、子どもたちに地域発展の担い手としての能力を身につけさせ、自立を目指させるというものである。その活動の中で著者らが出会った子ども、とくに女子の困難な状況と、それを乗り越えた、たくましく生きる女子達が描かれている。

 親の借金の肩代わりに、他人の家で強制労働させられる「カムラリ」として、6歳から毎日12時間、11年間も酷使されたネパールの少女、ウルミラさんは、プランの支援によって救われ、学校に通う夢を叶えた。

 マリ共和国のアミナタさんは14歳のある日、親戚や父親から知らない男との結婚することを命じられたが、それを避けるため村を逃げ出し、家事使用人として3年間働き続けた。その後、プランの識字センターで教育を受け今は保育士を目指して勉強している。

 このように女子が困難を乗り越え、よりよい人生を始めるのに必要なのが「エンパワーメント」だとしている。そのパワーの源となるのが、「女の子自身が持つパワー」そしてもう一つが「ほかの人とともに生み出すパワー」ということだ。上記の二人も、自分自身の中のパワーを信じたからこそ、未来を拓くことができた。そして、エンパワーメントを推進するために重要な方策の一つがリーダーの育成であると、著者らは述べている。マララ・ユスフザイさんもリーダーの一人である。彼女は女子校を破壊する武装勢力を批判したことで襲撃されたが、その後も挫けることなく、パキスタン政府に対し女子への教育拡充を訴えた。彼女の運動が国際社会を動かし、パキスタン政府に10億円の資金を女子教育に活用することを約束させた。

 前述の、元カムラリのウルミラさんも「女の子の住み込み家事労働廃止キャンペーン」ネットワークの代表として政府に訴える活動を続けている。その結果、「カムラリ」は激減し、元カムラリが教育を受けるための支援も勝ち得た。

 彼女たちの活動を継ぐリーダーを育てるのは言うまでもなく「教育」である。プランのようなNGOやユネスコ、ユニセフなどの機関の取り組みで、女子が学校に通いやすい環境は整備されつつあるが、それでもいまだに世界で6500万人の女子が小・中学校の教育を修了できずにいるという。

 「私たちに何ができるのだろうか」そんな問いに対して、プランの支援者でもある作家の角田光代さんの言葉が紹介されている。「『知る』ということは『何とかしたい』と思うことで『何とかしたい』と思うことは、私の中では『かかわる』ということである」

 世界中の、学校に行けない女子の現状を知ることで、今彼女たちが何を必要としているのか。私たちにできることは何なのか。それを考えることができる。この本で応援の第一歩を踏み出すことができる。

(文責 山本 淳子)

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