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書籍紹介

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2018年10月

旧刊

『英語教育学と認知心理学のクロスポイント:小学校から大学までの英語教育を考える』

太田信夫・佐久間康之|305ページ|3,600円
北大路書房(2016年2月)

 本書は、認知心理学研究と外国語とりわけ、英語学習との関係を研究されてきた研究者の長年にわたる知識が凝縮している。本書を読むと、認知心理学は脳科学におけるエヴィデンス、つまり脳波計やfMRIなどの機械で脳波や血流の反応による像がなければ、実証できない様子に見受けられる。だが、本書のメインはそうではない。きちんとした手順を踏み,因子と考えられる変数の制御がきちんとできている「信頼できる」数量的研究を掲載してくれている。データもかなり簡略化し、文章に書き換えて表現してくれているため、一見難しいであろうと思われる認知心理学に基づいた言語教育の研究論文を比較的わかりやすく解説してくれている。そこに特別寄稿した脳科学者のロバート・H・ローギーの言葉にはよく耳を傾けるべきである。

 「(人間の脳機能の知見を教育実践への)(前略)応用例の中には、科学的根拠が皆無で、もしくはその科学的根拠の完全なる誤解に基づいた、まったくつじつまの合わないものもある。根本的に無意味な脳科学の専門用語を使用しており、教育課程に見せかけの科学的根拠を与えてはいるが、何の根拠にも基づいておらず、公明な脳科学者であれば誰も支持はしない。」(p. iV)

 本書に載せられた研究結果はリスニングへの不安対処方略や語彙学習において、たった1回しか見ていない単語でも長く継続して単語の勉強をすれば、一夜漬けのテストには向かないが、実力に対して十分な学習効果が期待できると生徒に伝えることができる、というのも知識として知っていれば、単語テストを継続するモチベーションにも繋がるであろう。ここで最もお薦めしたい章は、文法指導の実験結果である。実に慎重に文法指導の効果を検証するための実験条件を整え、可能な限りの変数を制御した「受動態」の指導に関する研究が記されている。某国立大学の一般教養の大学制を対象とし、3週間、授業内にて「受動態」に焦点をあてた指導を施したが、3週間の文法指導の事前と事後の差に統計的に有意(意味の有る)差は見受けられなかった、という研究結果である。このように成績優秀な某国立大学の学生から参加者を慎重に選定し、「あるターゲットとする文法項目」を演繹的に指導していてさえ、そうそう「受動態」は身につくものではありません、と結論づけたことは、数量的研究を行う者は、襟を正し、見習うべきである。産出したデータを丁寧に扱い、その結果を真摯に受け止め、勇気をもって公言すべきなのだと我々に教示している。それとともに、文法は演繹的に指導を行っても、そうそうすぐに習得できるものではないことを私たち英語科教員に教えてくれている。そんな励ましもこめられた重厚な内容となっている。(文責 福島知津子)

 

2018年9月

新刊

『英語教育幻想』 

久保田竜子|247ページ|886円
ちくま新書(2018年8月)

 本書は米国とカナダの大学で日本語教育と英語および外国語教育に20年以上携わってきた著者が批判的応用言語学(従来の科学的実証主義や固定的なものの見方を超えて、言語・文化・社会の一般通念を見直しながら新しい意味づけをする)の立場から日本における英語教育に関しての10の一般通念(幻想)を検証する内容である。

 著者はまずグローバルな言語としての英語という場合にはお手本になる英語はどのような英語なのかと問い、グローバルと言いながらアメリカ、イギリス英語のみがお手本になっている問題を指摘している。次にそのコミュニケーションをとる相手になるのは誰かという疑問を投げかけて、おそらく多くの人はアジアの近隣諸国や中東、アフリカ等の英語を使っているあらゆる民族を想起することはなく、アメリカを始めとする英語を母語とする特定の民族のみを思い浮かべる傾向があることを述べている。この傾向は特に政府が推進する英語教育施策で顕著であり、歪なグローバル人材が育成されることを懸念している。

 10の幻想の中で特に興味深かったのは幻想6の「英語ができれば世界中だれとでも意思疎通ができる」である。この「英語は国際的な言語であり、英語を習得すれば世界の人々と意思疎通ができる」という議論は文部科学省の外国語教育政策での前提になっており、またメディアでも謳われていることなので、いわば常識となっているが、ブリテッシュ・カウンシルの研究員であるデイヴィット・グラッドル(2006)の報告書によると、英語を話すのは世界の人口の4分の1程度で世界の人口の4分の3は母語としても第二言語としても英語を話さない。つまり英語は国際言語というのは傾向に過ぎないことを指摘している。さらに、著者がおこなった海外駐在員(中国、韓国、タイ)が現地での使用言語の選択に関する調査で非英語話者同士がビジネスで使用する言語が必ずしも英語でなく現地語の習得が必要な場合が多ことや又は日本語のみでできる場合があることを4つの要因から論じている。

 確かに英語が世界で多く使用されている言語であるというのは事実であるし、英語ができないよりできた方が他国の人とコミュニケーションを取れる機会は多くなるだろう。だが、英語ができればグローバルな人材なのか?国際コミュニケーションは英語ができればそれだけで良いのか?本書はこれらの問いを深く考えるきっかけを与えてくれる。  (文責 松尾 徹)

2018年7月

旧刊

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

新井紀子|287ページ|1,500円
東洋経済(2018年2月)

 若者の読書離れや読解力の低下が指摘されている中、「教科書が読めない子どもたち」というフレーズに興味を持った。新井氏は自身が参加したTED Talkの “Can a robot pass a university entrance exam?” において、AIロボット「東ロボくん」が大学受験に挑み、その結果、東ロボくんは上位20%に位置し、日本の6割以上の大学に合格できる力があるという報告をした。
 本書では、巷で囁かれている「将来AIが主導権を握り、人類はAIに支配されるのではないか」といった噂について完全に否定している。将来、AIが神になることも人類を滅ぼすこともない。第一にAIはコンピュータ、すなわち計算機であるので、文章を「読む」ことはできないからである。しかしながら、その「文章が読めない」AIが日本の子どもたちを差し置いて上位20%に入る力を示したとはどういうことだろうか。最も興味深かったのは第3章「教科書が読めない-全国読解力調査」であった。日本の中高生を中心に実施された調査では、教科書や新聞に書かれている文章の意図や意味が正確に理解できない子どもたちの現状が明らかとなった。これからの世の中では、AIが代行する様々な仕事以外の仕事が人間に残された仕事となるであろう。残された仕事には「高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断力」(p.171)が必要とされるが、現在の子どもたちの読解力調査の結果からは将来を楽観できない。英語を教える教員として英語力のベースは母語における国語力にあることは重々承知しているが、読解力をはじめとする言語運用能力や判断力を英語という外国語を学びながらいかに養成するか、という問題提起としても捉えられる一冊である。(文責 大塚朝美)

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