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書籍紹介

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2019年6月

新刊

『教育激変-2020年、大学入試と学習指導要領 大改革のゆくえ-』

池上彰、佐藤優|220ページ|840円
中央公論新社(2019年4月)

過日、「2年後の2021年に迫った大学入試改革。センター試験に代わる大学入学共通テストによって何がどう変わるのか。優れた論客である著者2人が、改革の狙いや現状の問題点などを語り尽くす。特に山本廣基・大学入試センター理事長を迎えての鼎談(ていだん)は、率直な本音にあふれていて興味深い。」という読売新聞のレビューに惹かれて求めた一冊だが、あちこちに問題提起があって面白い。

例をひとつ
 池上:新テストでは・・・英語力を四技能フルで測るという「改革」が行われます。
 佐藤:・・・この試験に「話す」はいらないと思うんですよ。
 山本:私の立場でこんなことを言っていいのかどうか分かりませんが、大学教育の基礎力として四技能を均等に求めるのかどうか、もっと議論が必要だと個人的には思っています。
(文責 中垣芳隆)

2019年5月

旧刊

『国家と教養』

藤原正彦|208ページ|799円
新潮文庫(2018年12月)

 本書は2018年末に出版されているが、2019年5月に元号が改まったことで、タイトルにある「国家」にコンテクストが与えられた感がある。「国」や「日本」といっても「国家」をタイトルにする本は多くはない。後段の「教養」についてはこのところちょっとしたブームで「教養」についての本が多く出版されている。といったわけで「国家と教養」は今、見逃せない1冊といってもよい。

 著者は数学者であるが、2005年に出版された「国家と品格」をはじめとしてその明快かつ独創的な日本人論には定評がある。本書では古代ローマ帝国時代の教養から20世紀ヨーロッパの教養、そして日本の教養まで、教養とその衰退の歴史を綿密に述べている。リベラルアーツの起源についての下りは、大学の教養教育の原点に立ち戻る感覚があり新鮮である。中世ヨーロッパで大学が誕生したとき、リベラルアーツは「自由人となるための技術」という意味で自由七科(数学系四科と言語系3科)が選ばれていた。著者によれば、20世紀に入って教養は衰退の途を辿っている。民主主義の下で国民一人ひとりの教養がとりわけ必要になってきた中で、なぜ教養主義が衰退し始めたか。著者は読みごたえのある4つの理由を説明している。「教養」をグローバルスタンダードの対極に置きつつ、現代の民主国家における教養や大衆教養まで次元を広げた議論が展開されている。

  「教養」は思考を深める手段である。本書は「教養」そのものである。(文責 東條加寿子)

2019年4月

旧刊

『日本語を翻訳するということ —失われるもの、残るもの—』

牧野成一|208ページ|780円
中央公論新社(2018年6月)

「はじめに」のなかで、本書の目的が次のように書かれている。「・・・タイトルからわかるように、日本語を翻訳するということがどういうことかを、みなさんが学校教育で学んできた英語を使って一緒に考えていきたいと思います。ただし、「日本語を英語に翻訳するということ」ではありませんね。どうしてでしょうか。」(p. ii)

 本書は、日本語を母語とする学習者が英語(外国語)を学ぶ時に陥ってしまう「翻訳」の罠(トラップ)に鋭く切り込んでいる。ある言語がわからない人が読んでわかるように、その人の母語(またはその人が知っている言語)に移し替えることを翻訳というとして、原文に忠実な「直訳」では翻訳を読む人には不自然で読みにくく、さりとて「意訳」では原文からあまりにも離れすぎていて原文とは別物になってしまう。翻訳対象となるジャンルは無数にあるとして、特に文学作品などの文芸は「人間の情意(パトス)と関わりますから」(p. i)、日本語を日本語以外の言語に翻訳をすることは至難のわざとなる。その至難のわざから見えてくるものを解き明かしてくれるのが本書である。

 「過去の話なのに、現在形?(第4章)」「日本語の数はおもしろい(第5章)」「受動文の多い日本語、能動文の多い英語(第7章)」は、英語教育に携わる者ならすぐに思い当たる節がある。時制、単数・複数、および受動態・能動態の扱いは日英で根本的に異なり、教えるのは困難を極める。本書でひも解かれる日英の言語的特性の解明は圧倒的な説得力をもち、魔法のようである。

 中でもとりこになるのは、「「ですます」が「である」に替わるとき(第6章)」であるが、ここでは、ひとりの文体や発話の中に出現する交換現象を「ソト形」と「ウチ形」を用いた「コミュニケーションの矛先」の観点から分析している。ちなみに、本書は、相手を意識して距離をおいて話す「ソト形」(敬体)で書かれ、「読み手と話し合う姿勢で書いたつもり」(p.ii)との著者の意図を具現化している。言語学の魅力と奥深さを包み込んだ一冊である。(文責 東條加寿子)

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