2022年 6・7月

英語学習の科学
中田達也・鈴木祐一編|230ページ|2200円研究社

この本の目的は第二言語習得研究に基づいて、効果的な英語学習法を紹介することである。第二言語習得研究とは「外国語はどのような仕組みで学習されるのか」という理論的な問いと「外国語はどのように学習、または指導したら良いか」という実践的な問いを探求する学問である。この研究分野は1970年代に生まれた比較的若い学問であるため、外国語学習のメカニズム、効果的な学習法・指導法に関する全ての謎が明らかになった訳ではないが、新しく分かってきたことも多い。但し、第二言語習得研究で明らかになった知見の多くが専門書や論文で発表されるため、研究成果が一般の英語学習者に十分伝わっていないのが現状である。その一方で、世間には「効果的な英語学習法」に関する書籍やウェブサイトで溢れているが、これらの多くは単なる個人の体験や俗説が書かれているに過ぎず、最新の研究成果に反している内容も少なくない。このような現状を打破するために、第二言語習得研究の最前線で活躍されている11人の専門家が第二言語習得理論についての予備知識がない読者を念頭に執筆したのが本書である。
 本書の構成はまず第1章で効果的な英語学習を行う上での大原則が紹介されているので、この章を最初に読むことが薦められている。その後は読者の興味のある章を読めるようになっている。第2章〜4章は英語力の基礎(第2章語彙、第3章文法、第4章発音)となっており、第5章〜8章はいわゆる英語の4技能(5章リスニング、6章リーディング、7章スピーキング、8章ライティング)になっている。そして第9章〜12章では英語学習に影響する個人差要因や環境(9章記憶力、適正、性格の影響、10章動機付け、学習スタイルなど、11章年齢の影響、12章留学経験の影響)について解説している。
 全ての章で「専門家に聞いてみました」というタイトルとよく問われる質問が書かれており、その質問に専門家がわかりやすく答える形で展開されているので大変読みやすくなっている。読みやすいだけでなく、最新の研究成果も紹介されているので、効果的な英語学習法について知りたいと願う読者だけでなく、第2言語習得を本格的に研究したい大学生や大学院生にもお勧めの内容になっている。個人的には、現役の教員の先生にも自分が授業で行っている指導法が少なくとも最新の研究成果に反していないかを考えることができるという点でお勧めできる内容になっている

(文責 松尾 徹)

2022年 4・5月

100歳まで読書
轡田隆史|261ページ|1200円+税円三笠書房(2019年11月)

 本書は難解な専門用語を用いず、読書の面白さを紹介している。現代人の活字離れに警鐘を鳴らすわけではない。それどころか、軽快でユーモラスな文章を用いて読書の魅力を伝えている。「本は最後まで、人生のよき相談相手となってくれる」と冒頭から読書の価値を提示している。すなわち、本は何らかの問いに対する「質問相手」なのである。どんな時も、どこにいても、本は答えを見つける手助けをしてくれる。

 また、一日の読書の始まりとして、新聞を挙げている。しかし、新聞を取っていない家庭も今や珍しくはない。それなら、図書館や書店で地域の新聞を入手してみよう。地域の新聞を読むことから、地元、日本、世界へと視野の拡大が可能となる。

 さらに、本書の特長として、多岐にわたる書評が挙げられる。『古事記』『万葉集』『源氏物語』といった古典から、宮沢賢治、夏目漱石、森鴎外といった文豪にまで幅広く触れている。そして、永井荷風、井伏鱒二、村上春樹といった作家についても述べている。その上、詩集、辞典、時刻表というジャンルにも言及し、それぞれの活用法を示している。したがって、本書を読めば幅広い分野、作家に対する興味が高まるであろう。言い換えれば、手当たり次第に本を手に取る「雑読」を薦めている。一方、昔読んだ本をもう一度読む「再読」もまた新鮮である。人生経験を積んだ後再読すれば、初めて読んだ当時の記憶を思い出させてくれるのに違いない。これは、旧友と再会することにも似ている。このように、日常生活において本の存在が身近になることで、自然と読書習慣が定着するであろう。

 スマートフォンが主流となり、本離れが問題視される現代であるからこそ、読書の意義を見直すべきである。もはや、スマートフォンの優れた点は否めない。しかし、それだけでは情報過多に陥るであろう。真実を見抜くには、能動的に「読むこと」が必要である。「本を読まない人は「こころ」から老い始める」と本書が指摘しているように、読書によって脳の働きは健康に保たれる。改めて、たとえ一日短時間でも、継続して本を読みたいと実感させられる一冊であった。

(文責 仲川 浩世)

2021年2・3月

ほんとうにいいの?デジタル教科書
新井紀子|70ページ|580円+税円岩波ブックレット(2012年12月)

 デジタル教科書の是非を問うタイトルであるが、教育のデジタル化全般について一石を投じる内容になっている。GIGAスクール構想により、コンピュータ(タブレット)1人1台が実現している今、「デジタル」がもたらす教育効果と弊害について考えるきっかけを与えてくれる。

 私自身は、仕事に関係する書籍に関しては選択肢があれば電子書籍を選ぶ。必要に応じて文字の大きさを変えられるし、しおり機能や検索機能は便利で活用しやすい。音声を機械に読み上げさせることもできる。こういった機能は、著者の言うとおりさまざまな障害を持つ子どもには福音となる。しかし、子どもによって適した学習スタイルは異なる。紙の本に書き込んだり付箋を貼ったりしながら覚えることが得意な子どもや、デジタルではかえって学習がうまく進まない子どももいるだろう。デジタル化が新たな弱者を生むこともあるという著者の警告には耳を傾けなければならない。

 視力への悪影響や肩のこりなど身体面への負担も無視できないが、そういったことよりも懸念されることはデジタル教科書の「面積」の狭さであると著者は述べる。情報を上下に重ねたデジタル教科書では、紙のメディアのように複数の資料を机に並べて、一覧できる状態で学ぶことができない。「重層的なパースペクティブは、教科書や年表・地図帳など複数のタイプの異なる情報が同時に視野に入ったまま「行ったり来たり」することで培われる」(p.15)。そうやって学ぶことが得意な子どもたちから、デジタル教科書は「よりよく学ぶ機会」を奪うことになると著者は懸念する。

 学びのゲーム化も進んでいる。計算問題や文法の正誤問題を楽しくゲームを通して解くことができれば、学習意欲も高まるだろう。しかし「明確な即時フィードバック」を得ることに慣れた子どもたちが、結論がすぐに出ない議論に違和感を覚え、文字で書かれた文章の読解から刺激を受けにくくなるとする著者の主張は、教育に携わる私たちだけでなく、デジタル化を推進する社会全体への注意喚起にもなっていると感じる。

 インターネット社会でデジタルメディアをうまく活用できる能力を子どもたちに身につけさせることは学校教育の使命だということに疑いはない。同時にデジタルメディアが万能ではないことも十分認識しなくてはならない。アナログメディアとどうバランス良く組み合わせていくかという視点も必要になろう。技術革新が必ずしも万人に恩恵をもたらすものではないということに改めて気づかせてくれる小冊子である。

(文責 山本 淳子)

2021年12・1月

未来の学校のつくりかた
税所篤快|299ページ|1,800円教育開発研究所(2020年6月)

 本書は5つの教育現場の取材をもとに、それぞれの取り組みが未来の教育、つまり2030年の学校づくりへのヒントやモデルにつながるのではないか、といった視点で様々な学校の形が報告されている。ドキュメンタリー映画「みんなの学校」の舞台となった大阪の大空小学校、東京都杉並区の地域と学校づくりへの取り組み、通信制の私立高校「N高」、長野県上田市の侍学園、岩手県大槌の教育復興への取り組み、がその5つである。どの現場の報告においても子供たちに真摯に向き合い、どんな子供も大きな愛で受け止めていく教育の原点が感じられ、胸が熱くなる。中でも最新の技術を駆使した未来の教育の参考となるだろうN高の取り組みは注目に値する。何事も「させられている感」がない学校に、というN高の副校長のことばには考えさせられる。児童、生徒、学生主体の学校を目指していても、ともすればこちら側から多くを与え、管理する教育になりがちである。また、生徒や学生側も与えられることや管理されることに慣れてしまい、自ら行動することをあきらめてしまいがちである。教育の主人公である学習者が主体的に学べる学校づくりには工夫と忍耐力が必要となり、それらのヒントが多く含まれているのが本書だろう。

(文責 大塚朝美)