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大阪関西万博2025から考える
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大塚朝美
- 更新日:2025年6月7日
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大阪関西万博(EXPO2025)が2025年4月13日に開幕した。工事の遅れや工事中のメタンガス爆発事故、チケット前売りの売れ行き不振など様々な問題が指摘された中でのスタートであったが、5月末の時点では一般の入場者の合計がおよそ11万人を超えているという。筆者も万博のチケットが手に入り、急遽万博会場を訪れた。
各国が手掛けるパビリオンの入場予約は全くできず、当日もパビリオンの前には長い行列ができていたため入ることはできなかった。しかし、それぞれのパビリオンにはその国独自のデザインや工夫があり、その外観を見ているだけでも楽しむことができた。大屋根リングから会場を見渡し、カラフルで独創的な建物の数々を眺めながら、やはりパビリオンの大きさが国の経済力と比例しているのだろう、などと考えながら歩いていた。万博への参加国は158か国・地域(2025年4月時点)であるが、大型のパビリオンを構えない国々は共有の建物をいくつかのセクションに分けて展示したり、大きなスペースに展示ブースを出す形でそれぞれの国の紹介を行っている。セネガル、バングラデッシュ、アルジェリア、カンボジアなど、国の名前は知っていても、国の産業や特産物など知らないことも多く、展示を見ながらその国の空気を感じつつ、興味深く巡ることができた。展示の説明については、英語の説明のみで示している国、日本語と英語を併記している国、また、日本語でプロモーションビデオを作成している国など、様々であった。英語のみで表示されている展示では、「ここは英語で書かれているから、分からないなぁ」という声を耳にした。展示の説明を日本語で表記しなかった理由は、予算の都合だったのか、もしくは日本語表記は必要ないと考えたのかは不明であるが、いずれにしても英語の説明を読まない来場者には情報が伝わらないことについて、主催国はどう考えているのだろうと感じた。一方で、万博という国際的な舞台では英語の使用は常識であり、英語で示して当たり前、という場面に日本の来場者たちはどう対応していくべきであろうかと考えた。文字から得られる情報以外に、様々な展示から視覚的な情報は得られるだろう。異国からきた展示物やそのパビリオンに漂う異国の匂いは、行ったことのない国の雰囲気を肌で感じられ、文字情報から得られる知識とはまた違ったものを感じ取ることができる。しかしながら、英語を教える教員の立場からは、英語を読むことで情報を得ることができれば、さらにその国への理解や興味が深まるのではないだろうかと考えてしまう。
テレビで報道される特集などで目にしていた有名なパビリオンは近くにありながら遠い存在であった。それでも万博会場のシンボルである世界最大の木造建築としてギネス世界記録に認定された大屋根リングから会場を眺めることで、万博という空間を味わうことができた。多くの子供たちが学校から訪れているのを目にしたが、世界の英知が集結した万博の体験から、よりグローバルな視点を持つ地球市民を育てていく責任を考えた万博体験であった。
英語教育リレー随想バックナンバー
2025年
2024年
- 第149号(2・3月)(森 均)
- 第148号(12・1月) Negative Capabilityの大切さ(松尾 徹)
- 第147号(10・11月)空と自転車と(仲川浩世)
- 第146号(8・9月)新五千円札に想う(富永 誠)
- 第145号(6・7月)「声」の力(山本淳子)
- 第144号(4・5月)偶然が重なった母校訪問(大塚朝美)
2023年
- 第143号(2・3月)最初の分掌経験は保健部-教員集団・生徒達に助けられ-(森均)
- 第142号(12・1月)大阪・関西万博に向けて(富永誠)
- 第141号(10・11月)教員養成センターの業務に携わって(仲川浩世)
- 第140号(8・9月)やっぱり実践的な英語力は不可欠!(松尾徹)
- 第139号(6・7月)英語教授法について(山本淳子)
- 第138号(4・5月)多様性のあるクラスルーム(大塚朝美)
2022年
- 第137号(2・3月)教員のキャリア発達のもとは?(森均)
- 第136号(12・1月)メタバースが私たちの生活にもたらす影響(松尾徹)
- 第135号(10・11月)英語教員のつぶやき:研究会活動から学んだこと(仲川浩世)
- 第134号(8・9月)急がれる部活動の地域移行(富永誠)
- 第133号(6・7月)ある大学一年生との出会い(山本淳子)
- 第132号(4・5月)教育現場のインターンシップ(大塚朝美)
2021年
- 第131号(2・3月)2つの教職関連科目を担当して思うこと(松尾徹)
- 第130号(12・1月)夢のある仕事?(森 均)
- 第129号(10・11月)紅葉の時期が来れば(仲川浩世)
- 第128号(8・9月)パワポの功罪(山本淳子)
- 第127号(6・7月)オンライン授業に思うあれこれ(大塚朝美)
- 第126号(4・5月)Nā haliʻa aloha ma Ka Haka ‘Ula o Ke‘elikōlani (The cherished memories in Ka Haka ‘Ula o Ke‘elikōlani)(夫明美)
2020年
- 第125号(March)Souvenir は本当に「おみやげ」なのか?(松尾徹)
- 第124号(February) 産業用半導体メーカーにて-去っていく若手社員達(森均)
- 第123号(January) 高校入試に「英語スピーキングテスト」(中垣芳隆)
- 第122号(December) 明日は明日の風が吹く(仲川浩世)
- 第121号(November) 英語教育における機械翻訳の役割(山本淳子)
- 第120号(October)オンラインで発音学習(大塚朝美)
2019年
- 第119号(February)産業用半導体メーカーにて-改善提案システムの経験(森均)
- 第118号(January)若者の意識調査(中垣芳隆)
- 第117号(December)英語で講義をするということ(東條加寿子)
- 第116号(November)22歳の決断(山本淳子)
- 第115号(October)harmonyとtolerance(福島知津子)
- 第114号(September)教員免許更新講習会を担当して(松尾徹)
- 第113号(August)言葉を駆使する文化(大塚朝美)
- 第112号(July)人の静寂を邪魔しない(夫明美)
- 第111号(June)実践の推進力を得た大学院時代(森均)
- 第110号(May)忘れえぬ言葉(中垣芳隆)
- 第109号(April)区切りの新年度にむけて(東條加寿子)
2018年
- 第108号(March)5つの卒業式に思う(大塚朝美)
- 第107号(Feburary)やってみなはれ(夫明美)
- 第106号(January)私の教育実習・・・指導担当は教頭先生!?(森 均)
- 第105号(December)高校生のための学びの基礎診断(中垣芳隆)
- 第104号(November)東京オリンピック・パラリンピックと英語教育改革(東條加寿子)
- 第103号(October)グループ学習と協同学習は同じではない(松尾徹)
- 第102号(September)8月6日は忘れられてしまうのか(福島知津子)
- 第101号(August)ペア学習の意義(大塚 朝美)
- 第100号 (July)ことばは生きている3(夫 明美)
- 第99号 (June)国家資格取得に熱中した大学時代・・・思わぬ恩恵 (森均)
- 第98号 (May)ムーミン (中垣芳隆)
- 第97号 (April)『君たちはどう生きるか』によせて (東條加寿子)
2017年
- 第九十六号(March)異文化を理解する?しようとする? (福島知津子)
- 第九十五号(February) 大人の発音学習 (大塚朝美)
- 第九十四号(December) 現在の状態が続くと思わない方がいい?(森)
- 第九十三号(November) Education(中垣)
- 第九十二号(October)気がかりなCEFR(東條)
- 第九十一号(September)8月31日の夜に(福島)
- 第九十号(August)教員免許状更新講習を終えて(大塚)
- 第八十九号(July)複数の方策を同時に(森)
- 第八十八号(June)教育勅語について一考(中垣)
- 第八十七号(April & May)新年度を迎えて:変革期の英語教育 一考(東條)
2016年
- 第八十六号(March)何のための英語教育かを問い続けよう:英語教育の未来(中井)
- 第八十五号(February)教育の無償化について」( 中垣)
- 第八十四号(January)語られはじめた「グローバリズム以後の世界」( 東條)
- 第八十三号(December)師に教わりしことをこころに灯し続け(中井)
- 第八十二号(November)国際理解・異文化理解‐「教職実践演習」のヒトコマ(夫)
- 第八十一号(October)チーム学校を支える教育相談の方策 (中垣)
- 第八十号(September)夏の終わりの学会から Content-based teaching(内容重視の英語授業)の落とし穴 (東條)
- 第七十九号(August) これからの時代に求められる即答力(中井)
- 第七十八号(July) 教育実習を終えた学生の成長(夫)
- 第七十七号(June) 古くて新しい話題「部活顧問」(中垣)
- 第七十六号(May) All in English クラスのダイナミクス(東條)
- 第七十五号(April) 「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」の問いかけに(中井)
- 第七十四号(March) 無駄をそぎ落とす(夫)
- 第七十三号(February) 頑張れ 街の本屋さん(中垣)
- 第七十二号(January) ニッポンのジレンマ(東條)
2015年
- 第七十一号(December) 日英ことわざ文化散歩(中井)
- 第七十号(November) 教材研究:実践演習のヒトコマ(夫)
- 第六十九号(October) 選挙年齢の引き下げ(中垣)
- 第六十八号(September) 主体なき謝罪(東條)
- 第六十七号(August) 「英語の世紀」に生きる:親英語 vs. 反英語(中井)
- 第六十六号(July) オンライン辞書作成に関わって(夫)
- 第六十五号(June) 出発した教育委員会改革(中垣)
- 第六十四号(May) 大事なものは見えにくい(東條)
- 第六十三号(April) アクティブ・ラーニングは思考を活性化する救世主か!?(中井)
- 第六十二号(March) Honoring our heritage, Embracing our diversity, and Sharing our future(夫)
- 第六十一号(February) 読書離れとスマホ(中垣)
- 第六十号(January) マララ・ユスフザイさん ―国連演説からノーベル平和賞受賞演説へ―(東條)
2014年
- 第五十九号(December) 「時代の風」—未来圏から吹く風(中井)
- 第五十八号(November) 「外国語活動」から「教科」へに思う(中垣)
- 第五十七号(October) 大阪府における英語教育の方針:時事ニュースより(夫)
- 第五十六号(September) No Worry(東條)
- 第五十五号(August) 「心の振幅」-興味、関心の扉を開く英語(中井)
- 第五十四号(July) 花道(夫)
- 第五十三号(June) 最近の新聞記事から(中垣)
- 第五十二号(May) ネイティブ教員との協働に学ぶ(東條)
- 第五十一号(April) グローバル化時代のパラドックス(中井)
- 第五十号(March) Lawe i ka ma’alea a kū’ono’ono(夫)
- 第四十九号(February) ある日の授業から(中垣)
- 第四十八号(January) 量的世界の中の質的存在(東條)
2013年
- 第四十七号(December) 授業のイノベーション:TED Talksの教えーStart with Why (中井)
- 第四十六号(November) ことばは生きている2 (夫)
- 第四十五号(October) 学校5日制の下での土曜授業推進の一考察 (中垣)
- 第四十四号(September) 教育再生実行会議に対する学会からの提言:「京都アピール(仮称)」の意義 (東條)
- 第四十三号(August) 勉強会「英語の教え方教室」と「学び続ける教師」(中井)
- 第四十二号(July) 「聞く」と「聴く」(夫)
- 第四十一号(June) Quo Vadis(中垣)
- 第四十号(May) 「大学入試にTOEFL導入」論に思う(東條)
- 第三十九号(April) 教育未来図(中井)
- 第三十八号(March) 新学期とand so onについて(寺)
- 第三十七号(February) E hana mua a pa`a ke kahua mamua o ke a`o ana aku ia ha`i(夫)
- 第三十六号(January) 新年一考:知の伝承を忘れかけた学校(東條)
2012年
- 第三十五号(December) 正論はいつも正しいか(中井)
- 第三十四号(November) ザ・厄介な英単語(寺)
- 第三十三号(October) 組織のリーダーを考える(中垣)
- 第三十二号(September) E lauhoe mai na wa‛a (Everybody paddle the canoes together)(夫)
- 第三十一号(August) (続)言語活動の潮流を読む:英語プレゼンテーション(東條)
- 第三十号(July) 席巻するCAN-DOリストについての一考 —グローバル人材育成が求められる中で—(中井)
- 第二十九号(June) 英語学習における「Google革命」?(寺)
- 第二十八号(May) 連休のまとめ(中垣)
- 第二十七号(April) Seeking for knowledge and wisdom(夫)
- 第二十六号(March) 韓国の英語教育に学ぶ(東條)
- 第二十五号(February) 大阪女学院大学「教職課程」から教職専修としてさらなる充実をめざします(中井)
- 第二十四号(January) 思いやりの広がり(中垣)
2011年
- 第二十三号(December) 絆 2011 (夫)
- 第二十二号(November) 人、言葉、英語 ―スティーブ・ジョブズ追悼― (東條)
- 第二十一号(October) 来年度教職Field Study訪問予定 英国Manor Church of England Schoolを訪ねて (中井)
- 第二十号(September) 大阪の残暑はこれから(中垣)
- 第十九号(August) Stand with grace, pride, and modesty(夫)
- 第十八号(July) Crisis in Japan, Crisis in Communication(東條)
- 第十七号(June) 第5回学習指導基本調査にみる中学校・高等学校での学習指導(中井)
- 第十六号(May) 心の中の神々(中垣)
- 第十五号(April) 間違いを恐れない覚悟(夫)
- 第十四号(March) ヨーロッパの言語事情(東條)
- 第十三号(February) 大阪女学院大学「教職課程」産声をあげてから1歳に(中井)
- 第十二号(January) 恩送り(中垣)
2010年
- 第十一号(December) 「絆」(夫)
- 第十号(November) 「若者よ、海外に出よ」(東條)
- 第九号(October) 朝日新聞連載「これでいいのか学校英語」に思う(中井)
- 第八号(September) 心に沁みる「ことば」(中垣)
- 第七号(August) 大舞台を経験することと、さらに大きな目標へ向けて準備すること(夫)
- 第六号(July) 英語力の構造を考える(東條)
- 第五号(June) 教員免許制度の見直しと教員の資質向上(中井)
- 第四号(May) 書棚の宝物(中垣)
- 第三号(April) 外国語学習における語彙学習(夫)
- 第二号(February) 世界を読み解く英語の力(東條)
- 第一号(January) デザイン力の大切さ(中井)